どもです。
恋愛をテーマにしたRPG、という場合、基本的にヒロインは落下系。
冒頭で運命の出会いを果たした少女です。
これは主人公からヒロインに対する感情・情報の初期値をプレイヤーと同じにできるためで、逆に言えば幼馴染ヒロインで恋愛メインは主人公に感情移入し辛くて、やり辛い。
友「御託はどうだっていい!幼馴染ヒロインで恋愛ものRPGがやりたいんだ!!」
うーむ、なんという無茶ぶり。
ここは、なぜ恋愛メインRPGで幼馴染ヒロインがやり辛いのかを掘り下げて考察した上で、打開策があるかを探ってみましょう。
Menu
理由①主人公が男性という点
少女漫画の場合、ファンタジーな世界での冒険譚にしても、核に恋愛があって、相手は幼馴染の男―というパターンは存在します。
僕の数少ない少女漫画レパートリーでは「暁のヨナ」が当て嵌まります。
二人の幼馴染の男がいて、物語開始時に思いを寄せていた男に裏切られ、もう一人の男との逃避行。世界を知り決意を固め、世間知らずのお姫様が強く逞しく成長していく。成長は幼い恋心との決別へと繋がり、幼い少女には見えていなかった、自分を支えてくれた男との間にあった愛に気づいていく。
こういった話であれば、恋愛メインでバトル物が成り立つでしょう。
が、一般的に、性別選択制やキャラメイク制を除いて、RPGの主人公は男性の傾向が強いです。
これは単にRPGが男性のものだから、というわけではなく。
女性に人気のRPGだって、基本的には主人公は男性なのです。
それは何故か。
日本的ジェンダーに基づく女性の理想像が、RPGの主人公としては扱い辛いからです。
日本人の嗜好として、例え戦闘力が高く、精神的にもタフな女性だったとしても、ここぞというところでは「男に守られる女」であることが求められるのです。
RPGのシナリオとは、勝って勝って勝つものです。
先に挙げた「暁のヨナ」では主人公はどんどん精神的にタフになっていきますが、戦闘力はせいぜい素人の男性を伸せるかどうかといった程度です。
物理的なピンチに対してはどうしても超強い幼馴染や超常的な身体を持つ仲間に助けられることになります。
RPGとして、それでは困ります。
それなら「暁のヨナ」が幼馴染の男性を主人公として成り立つか、という話になりますが、残念ながら成り立ちません。
肝心の恋愛が、ヒロインの成長と心境の変化に依存するからです。
いつの間にか成長したヒロインが過去の恋愛を吹っ切って、自分を見てくれた、という受け身のシチュエーションでは、主人公として不足です。
主人公とは、自分で選び、自分の力で世界を変えることができるから、主人公なのです。
理由②回想が使い辛い
さて、どうにかして前述の問題点を突破できたとして、それでもまだ重要な課題が残ります。
ヒロインに対する感情・情報の初期値をプレイヤーと共有しなければならないという点です。
これを解決する方法として、パっと思いつくのは二つ。
過去編から始めることと、回想を設けることです。
回想を設ける、というのは、漫画では馴染みの手法です。
先に挙げた「暁のヨナ」も、よく幼少期の回想が差し込まれます。
が、ノベルゲー以外でゲームで回想というのは、かなりの難関なのです。
なにせ、ひたすらテキストを読むシーンになりがちなので。それはゲームとして、だいぶ困ります。
原則、ゲームでの回想はフラッシュバック的な、ごく短いものに留めた方が良い。
これを上手く解決したゲームとして、思い浮かぶのはFF10とTOEです。
回想>FF10の場合:幻想・空想と現実が曖昧な世界
FF10は父親との回想が何度か盛り込まれましたが、違和感や退屈感はありませんでした。
これはFF10が終盤まで主人公のモノローグで進んでいくという、極めて特異な構成だったことが一因と思われます。
また、世界自体が胡蝶の夢といった雰囲気があり、幻想と現実が曖昧だったことも大きいでしょう。
今のシーンが回想なのか、幻なのか、それとも現実なのか、パッと判断させない不思議な世界観が根本にあります。
FF10では「幻光虫」により過去の映像が要所で差し込まれましたが、その性質上、場面切り替えを行わないため、ひとつの回想を数回に切り分けて差し込むことが可能となり、回想のネックである「長時間ただテキストを読む(映像を見る)」行為を回避できています。
回想>TOEの場合:過去の誰かを実際に操作する
一方、TOEは終盤、力を得るための試練という体で、「過去・自分と関わった誰か」の記憶を辿ることになります。
制限はありますが操作も戦闘も可能で、わざわざ専用の戦闘モーションなんかも用意されており、大変凝ったイベントです。
主人公自身の記憶ではないため回想という感覚が無いところ、まずは作中のイベントの再演で流れを掴み、本命の主人公らの過去回想を行うという段階を経たことなど、評価すべきポイントが多くあります。
ただし、このイベントの意義はヒロインとの思い出ではなく「幼少期、何があったか」の一端に触れることです。
また、このイベントが発生するのは、先に述べましたがシナリオの終盤であり、プレイヤーの初期値を生成するには不向きです。
以上のように、回想をゲームの中で設けるには、世界観やシステムから調整する必要があるわけです。
それに比べると、過去編から始める方が幾分か容易いと思われます。
過去編から始める
TOシリーズで例示するなら、過去編のある作品としてはTOG・TOBが挙げられます。
この辺りは典型的で、過去編用のグラフィックやユニットが作られており、それなりの長さで設けられています。
TOGの過去編はシステム制限が大きい割に、いささか長すぎたきらいがありますが。
また、TORも厳密には過去編を持つといえます。OPで終了していますが。
過去何があって、主人公とヒロインがどうなり、今に繋がるのかが流れで書かれています。
過去編が長過ぎるとストレスになるのですが、OPで終了しているため、その辺は一切ありません。
ただし、TORの場合はこれ以上に、冒頭で攫われた幼馴染ヒロインを助けに行くという前半のストーリーの中で、道中の主人公の言動からヒロインへの感情をプレイヤーと共有するという画期的な手法に目が留まります。
ストーリーに大幅な制限がかかるので推奨はしませんが、これも一手であることは覚えておきたいところです。
TOではありませんが、FF12の冒頭も過去編の一種です。
主人公以外の視点で物語が進み、過去の主人公に視点が移り、今の主人公へと繋がる造りは、恋愛ものとしては微妙ですが、なかなか面白い技法です。
理由③ヒロインとの関係性の転機
これに関して興味深い材料となるのが、DQ7のコミック・ノベライズです。
勿論、両者は全く違う人が書いているのですが、そのどちらもで幼馴染の少女の恋愛相手になるのが、主人公の親友である王子なのです。
旅に出るまで、幼馴染と王子の間には必ず主人公が立っていました。幼馴染はより身近にいた主人公ではなく、関係的に距離のあった王子の方に惹かれたのです。
第二次成長期以降に出会った・関わりを深めた異性であれば、初めから感情ベクトルに「恋愛」が含まれて何の問題もありません。
しかし幼馴染となると、出会いはそれ以前。必ずヒロインを恋愛対象として見るようになった切欠を要します。
歯に衣着せぬ言い方をするなら、ヒロインを「性的な目で」見るようになった切欠です。
当然ですが、実際の幼馴染であれば、別にドラマチックな展開を必要とはしません。
むしろ、ふと意識したときに異性を感じたとか、恋愛に興味を持った時に最も身近な異性として意識するようになったとか、そういうものでしょう。
しかしRPGにそれを当て嵌めると、大体は主人公が「そういう」意識をし始める時期をとっくに過ぎています。
恋愛という感情は、生殖行為へと繋がる生々しいものです。
それを一般的なRPGでは、綺麗なオブラートで包んで提供します。
運命的な出会いを果たしたヒロインであれば、その運命こそが綺麗なオブラート足り得ます。
しかし、幼馴染ヒロインとの関係に、そんないい感じのオブラートはありません。
よほど幼い主人公でなければ、ヒロインを意識する下りは下世話な話になりがちです。
注意すべきは、ヒロインを守りたいという決意は、恋愛感情抜きでも充分に成り立つということです。
それを敢えて恋愛とするのです。相応の理由が、切欠が必要不可欠なのです。
勿論、TOEのように冒頭から主人公からヒロインへの感情がある程度出来上がっていれば、話は別ですが。
恋愛メインのストーリーでそれを良しとするか、というのは考え物です。
理由を踏まえて、打開策を考察する
まず、主人公とヒロインの関係性をプレイヤーに共有するため、回想か過去編が必要になります。
ただし回想をゲームで用いることは難度が高く、上手くシステムや世界観に落とし込めないなら過去編が無難です。
また、冒頭から惚れているのでなければ、ずっと一緒にいる二人が相手を「性的に」意識する瞬間が必要になります。
そんな下世話な展開は嫌!というなら、例えば再会なのに初対面のような感覚を覚えるくらいに長く、離れ離れにさせておくなど二人の境遇を調整する必要があるでしょう。
恋愛要素があるという程度ならここまで悩まなくても良いのですが、やはり物語のテーマともなれば、小手先の調整では済まないですね。