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小説未満の駄文から脱却するためのポイントは「最初の一行」と「五感の情報」。- 創作ど素人考察

Game,Tale > 考察 2024年2月20日(最終更新:7月前)

どもです。

小説投稿サイトとか眺めていると、結構頻繁に小説未満の駄文に遭遇します。
内容の問題ではないのです。それ以前に「小説」の体裁を成していないやつです。
最初三行くらい読んで「あ、無理これ」となるやつ。

こういったものを所詮は駄文と切り捨てるのは簡単ですが、どうして駄文になってしまうのかを考えなければ、その駄文に目を通す時間に見合った価値を得られません。

そこで考えてみた結果、小説未満になってしまう要因、逆にいえば押さえるだけで内容以前の駄文を最低ライン回避できる要因が二つあると分かりました。

最初の1行はサビと心得る

始めこそ肝要、というのは動画作成のテクニックでよく語られる話です。TikTokは最初の1秒、Youtubeなら最初の10秒、ここで動画の視聴者数が決まるとさえ言われます。
これは小説でも同じ。

「メロスは激怒した。必ず、かの 邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。」
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。 」

今に語られる文豪の名作たちは、総じて最初の一文がキャッチー(印象的)です。

そして、駄文でよくあるパターンが、最初の一行が「あらすじ」で始まってしまうことです。
駄文のパターンを例示してみましょう。

 今日は朝から蒸し暑い日だった。食事をしてもどうにも物足りない気持ちが消えなかった。ベッドに入り、布団を被っても寝付けず、かれこれ一時間はベッドの上でうじうじしていた。真夜中もよいところになって、唐突に、僕は気づいた。
 そう、僕はアイスが食べたかったのだ。

うーん、日記かなこれは。
では、最初の一行に気を遣って書き直してみましょう。

 そう、僕はアイスが食べたかったのだ。
 ここは布団の中、時刻は真夜中も良いところであった。思えば今日は朝から蒸し暑く、食事をしてもどうにも物足りない気持ちが消えなかった。ベッドに入り、布団を被っても寝付けず、かれこれ一時間はベッドの上でうじうじしていた。そして唐突に、自分が何に飢えているのか気づいたのだ。

うん。ほぼ文章の前後を入れ替えただけで、内容はともかく体裁としてはだいぶマシになりました。

今回例示したダメ例はまだマシな方で、SSなんかだと最初の5行くらいが「ここまでのあらすじ」になっている作品はかな~り見かけます。
しかし「あらすじ」には作品の魅力は全く含まれていません。音楽だったらイントロどころかチューニングです。チューニングから始める楽曲はありません。あらすじは不要です。時系列がどこで、登場人物がどこにいて、先ほどまで何をしていて、そんな情報を読者に摂取させる必要はありません。二次創作なら猶更のこと、明示しなくても読者は分かります。どうしても必要ならAメロに入れましょう。とにかくサビやキャッチーなイントロから楽曲を始めるのです。

高度な動詞を避け、五感の情報を詰め込む

これは説明では分かりにくいので、いきなり駄文の例から示しましょう。

「大丈夫ですか」
 僕は少女の方に振り向いて言った。すると、少女が抱き着いてきた。
「ありがとうございます!」

はい。
前後関係は不明ですが、これだけでこの作品は絶対に面白くねーだろうな、と思えますね。

これをマシな文章に整えてみます。

 上がった息を整え、少女の方を見た。僕と目が合うと、暗がりの中で少女の肩が小さく跳ねた。怖かっただろう。それとも、僕が怯えさせてしまったか。咄嗟に目を逸らす。どうすべきか、コンクリートの隙間を眺めながら数秒ばかり考える。
「大丈夫ですか」
 結局、口をついて出たのは月並みな言葉だ。できるだけ優しい声となるよう気を遣ってみたが、どれだけの意味があったか。
 自己嫌悪に溜息をひとつ。少女に視線を戻そうとしたとき、腰に暖かく擽ったい感触が走った。――腕を、回されている。
「ありがとうございます!」

はい。
クソ例と同じ構図で、ここまで文章量が増えました。

体裁を整えるために「僕」の独白を追加していますが、重要なのは、文章に含まれる「動詞」と「五感の情報」です。

クソ例の方では地の文での「僕」の五感情報は「抱き着いてきた」のみです。

マシ例の方では「暗がりの中」「少女の肩が小さく跳ねた」「コンクリートの隙間」「腕を回されている」という4つの視覚情報と、「優しい声」という1つの聴覚情報、「腰に」「暖かく」「擽ったい感触」という3つの触覚情報を含んでいます。

これは漫画でいう「顔漫画」の回避方法と似ています。印象的な場面を描くときには背景を書き込み、カメラは様々なアングルで配置するのです。
時にはカメラを回すために、カットを冗長にさせることも必要でしょう。マシ例で「僕」が少女に声をかけるのを躊躇わせたのがそれです。

また、動詞の使い方にも注意しなければなりません。「抱き着いてきた」という表現は、一見して状況を説明するには充分です。
しかし「どこに」「どのように」「どうやって」という情報が不足しています。そこで、マシ例では「腰に」「暖かく擽ったい」「腕を回されている」というように「抱き着いてきた」という言葉を分解しました。

そう、情報密度が高い動詞は却って情報不足を招きます。初心者は避けるべきなのです。

他にも例を挙げてみましょう。「謝罪した」という一語なら、どのような分解ができるでしょうか。

どのように: 「いかにも申し訳なさそうに」「憔悴したように」「不服そうに」「渋々といった様子で」「真っすぐに顔を上げて」「視線を逸らして」「頬を膨らませて」「消え入りそうな声で」「いかにもな棒読みで」「よく通る声で」「叫ぶように」
どうやって: 「頭を下げた」「呟いた」「言い切った」「吐き捨てた」「額を地面に擦りつけた」

パッと思い浮かぶのは、これくらいでしょうか。
これを組み合わせてみると、

①「憔悴したように」「消え入りそうな声で」「頭を下げた」
②「頬を膨らませて」「いかにもな棒読みで」「呟いた」
③「いかにもな棒読みで」「額を地面に擦りつけた」

同じ「謝罪した」でも、全く異なる絵面になってしまいました。

必要なのは、豊富な形容詞と単純な動詞。画面の「絵」をできるだけ詳細に表現できる言葉です。


ということで、内容以前の駄文にならないためポイントを押さえることができました。
早くサビを書きたいと急けば一行目がおざなりになりますし、絵面を詳細に想像することを怠れば五感情報が損なわれます。

結局のところ、最初から最後まで丁寧に書く、というのが鉄則なのでしょう。

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