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「異世界で米と味噌汁を食べる」問題についての考察。-創作ど素人考察

Game,Tale > 考察 2023年12月13日(最終更新:4月前)

どもです。
先日、Twitterにて「異世界で米と味噌汁を食べるのはおかしい」という批評に端を発した論争を目にしました。

どうやら、なろう小説につけられたコメントから始まり、概ねコメントの方が浅慮だと結論付けられていたのですが、そういえば自分もこの問題についてはTRPGでGMをする際に少々考えたことがあります。

白米とふかふかパン、どちらが“異世界”にありそう?

まず、白米を用意する手順を考えましょう。
①稲から籾を取り出す(脱穀)
②籾から玄米を取り出す(もみすり)
③玄米を白米と糠になるまで削る(精米)
④鍋に水を張り、米を入れて炊く(炊飯)

こうして見ると、とても原始的な手順ですね。
仮に機械化されていなくとも、時間と労働力を用いれば手作業でも作れます。

では、ふかふかパンはどうでしょう。
①小麦から粒を取り出す
②小麦の粒から胚乳を取り出す
③胚乳を挽いて粉にする(段階式製粉方法)
④小麦粉・塩・イースト・湯または水(場合によっては+砂糖&バター)を捏ね混ぜる
⑤一次発酵
⑥ベンチタイム
⑦成型
⑧二次発酵
⑨焼成

手順が多い!!!!!
原始のパンは全粒粉と水を捏ねて焼いた、硬い煎餅のようなものでした。
これがふかふかパンへと進化したのは、古代エジプトにて余ったパン種を放置したらたまたま酵母菌が付着して発酵した事件があったためとされています。
つまり、ふかふかパンは“偶然”が生み、ヨーロッパ人の“歴史”が発展させた食べ物と言えます。

うん、こう考えると米飯の方が“異世界”――“現実世界と歴史の異なる世界”に存在していても自然です。

一方、味噌はどうか。
味噌の原型は奈良時代に生まれ、室町時代に「味噌汁」が開発され大衆化。戦国時代に陣中食として大量生産体制を整え、江戸時代には大きな味噌蔵が全国にあったと。
その製法は様々ですが、大まかには、
①大豆を蒸して潰す
②米または麦から作成した麹を付着させる
③発酵・熟成させる
とのこと。麹の材料は米か麦なので、材料面では問題ありませんね。

こうして考えると、人間が活動する“現実世界と歴史の異なる世界”に米や味噌が存在するのは、まあまあ普通にありそうなことです。

いやいや、“異世界”というのは中世ヨーロッパ風の世界なんだ!

というのは、“異世界”を“現実世界と歴史の異なる世界”と捉えた場合です。
件の主張も“異世界”という大きな主語を使っていたため、違和感を覚える方が続出したわけですね。

実際、大きな主語で曖昧な表現しかできないのは浅慮の証ではあるのですが、おそらく、この主張を行った方の中では“異世界”とは“中世ヨーロッパ風の現実とは異なる世界”のことを指していたと思われます。
まあ現代日本人が「中世ヨーロッパ」と聞いて想像するのは実は「近世に近い末期中世のヨーロッパ」だとかそういう話は置いておいて。

本件が「“中世ヨーロッパ風の現実とは異なる世界”に米と味噌汁が存在するのはおかしい」という主張の場合、これ結構話が変わって来るんですよね。

そりゃあ実際ヨーロッパは米飯文化でなくパン食文化なのだから、という話ではなく。
そこは“現実世界と歴史の異なる世界”なので、米飯文化があるんだよ!と強弁すれば押し通せます。

でも、ここに立ちはだかるのが「気候」なんですよね。

稲は日本~熱帯の作物で、ジャポニカ米の場合は適正温度が25度。育成には多量の水を要します。
ヨーロッパは温帯に属しますが、東京と近い平均気温のイタリアでは地中海性気候のため夏場の雨量が極端に少なく、実は米はおろかまともな作物が育てられません。
もう少し北のフランスだと、雨はマシになりますが夏場の平均気温は25度を下回り、もっと北のイギリスでは20度を下回ります。

つまり、ヨーロッパの気候は米を作るのに不向きなんです。
逆に小麦は高温多湿を苦手とするので、日本での栽培は不向きなんですね。現代でウクライナが小麦の一大生産地なのはこのためです。

いやそこは“現実世界とは異なる世界”だから!と押し通すことはできなくはないですが、文化と歴史と地理は密接にかかわります。
ヨーロッパ風の文化だけど、米の育成に適した気候なんだよ!は、少々リアリティの欠如を感じますね。

また、米は小麦と比較し、1.5倍の収穫量を持つ作物です。
そして水田は畑と違って連作が可能で、安定した収穫量をもたらします。一説には小麦畑の10倍の効率があるとか。

米が育つなら小麦、わざわざ育てますか?
効率悪いのに。
窒素固定によって農業効率が飛躍的に上昇した近代以降ならいざ知らず、飢餓がすぐ隣にあった中世で。

実際、歴史を見ると米食文化の中国・インド辺りは古来より農業の持つ権力が強く、小麦文化のヨーロッパでは商業の持つ権力が強かったことが窺えます。
一絡げに語れる話ではありませんが、米は小麦より強かったのです。

「米」の地域と「小麦」の地域は重複しない

つまるところ、気候面から見ても歴史的な順当性から見ても、「米飯」の地域と「パン」の地域は重複しないと考えるべきです。

なので「異世界で米と味噌汁を食べるのはおかしい」ではなく「庶民がパンとご飯の両方食べられる中世風の異世界はおかしい」なんですね。

ああスッキリした。

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